ハードボイルドな1日
2005年2月16日 趣味雪の降りしきる中、依頼を受けて車を走らせる。
目的地の近くの駐車場に車を乗り捨て、細く開いた門の
隙間から身を滑らせる。
中に入ると、ざわざわとしたざわめきと共に緊張が走る。
そう、ここは、パーラーという名のコンクリートジャングル。
生半可な知識では生きてはいけない。
何の準備もなくこのジャングルに入るということは、
裸で冬山に入るようなものだ。知識というコートは譲れない。
その点では十分厚着をしていた俺は、事前に手に入れていた
マップをたよりに目的地に向かった。
「ドラゴンギャル」
目的地に到着した俺は、相棒に1発ずつ弾丸を込めながら、
辺りをチェックする。移動しながら4発目の弾丸をマガジンに
セットした時、俺の体に電気のように直感が走った。
とっさに車のキーを投げ捨て、その場所をキープする。
「2−2−0−5−0−1−3」
目的地から見える標的、つまり宝玉の数だ。
自分は直感どおり、一番見通しのよい場所に腰を下ろす。
宝玉は5つ。全てを壊すまで立ち去ることは出来ない。
失敗という文字は俺の辞書にはない。
そんなことを考えながら、相棒に弾を3発づつ込める。
俺の弾丸は特注。アルミの軽い弾丸20発分の値段はするが、
俺にはこの弾丸が一番フィットする。
また、今は標的を撃つときは一度に3発の早打ちだ。
昔は狙いが定まれば1発でも打ったものだが、
この頃はそれを許さない。
目標が見えているのに当らない時は、1発の時に比べ弾丸2発分の
ロスとなる。小さなことだが、この世界で生きる俺には大きなことだ。
1発の精密射撃を行っていた昔が懐かしい。
だが、今は今。
気分を入れ替え標的に狙いを定める。
スコープ越しに目標を見ていると、次々に標的の宝玉が
運び込まれる。誰もここまで入り込む者はいないと
思っているのだろう。危機感のない奴らだ。考えが甘すぎる。
だが、今回考えが甘すぎたのは俺だったようだ。
安心して標的に近づいたその刹那、警報が鳴り響き、
女性オペレーターがエマージェンシーコードを館内に放送する。
「ムイムイチャレンジ!」
気付くと、まるで元力士かと思うほどのガタイのいいSPが、
俺の目の前まで近づいていた。
この距離であの体型となると、相棒では荷が重い。
俺は相棒を懐に入れ素手で飛びかかった。
当然、自分は腕に自信はあったが、ヤツも相当の腕だった。
その鍛え上げられた肉体はいくら攻撃をしても効いているのか、
効いていないのか分からず、また、時折見せる素早い動作も
俺を翻弄した。
仕方がない。
俺は中国でのミッションの報酬として手に入れた、
封印していた奥義を使うことを決心する。
そう、あの奥義、龍・气弾を。
俺は左手に气(aura=オーラ)をため、迫り来る巨漢のSPの腹に
渾身の力をこめ、气弾を叩き込む。
「なにをしても、俺には効かねえぜ...」
それが男の最後の言葉だった。
数瞬後、気は体内を駆け巡り、衝撃と共に男の体を弾き飛ばした。
静止した時の中、俺は標的の宝玉を確認する。
そして、懐で眠っていた相棒を叩き起こし、宝玉を破壊する。
破壊した宝玉は6つ。気付くと、辺りは夕方になっていた。
「おねんねするにはまだ早すぎる」
俺は、夕闇にまぎれ、宝玉の残りの2つを壊すと、
すばやく、場所を移し、5つ、8つ、4つと、次々に宝玉を破壊した。
気が付くと、時はすでに22時。
3回も訪れた夕方のチャンスで1度しか納得のいく当りが
なかったのは気になるが、これ以上ここにいても危険が増すばかりだ。
25個の宝玉を破壊したのだ。いくら、鈍感な奴らばかりだとはいえ、これ以上の成果は望めそうにない。
俺は、その危険な場所から足早に立ち去り、車に飛び乗るやいなや
小型トランシーバーで助手に連絡を入れる。
「使った弾丸は350発。壊した宝玉は25個。報酬は9800ドルだ」
『そうしたら、2800ドルの儲けしかないじゃないの。』
危険なミッションを選択した俺の命と2800ドルでは
釣り合わなかったのか、助手はトランシーバー越しにあきれたような
声で言った。
・
・
・
「男にはやらなくちゃいけない時があるのさ」
トランシーバーをオフにしたあと、車の中でスルメジャーキーを
吹かしながら俺は呟いた。
しばらく呆然としていたが、首の痛みが俺を現実に引き戻す。
「さあ、帰ろうか。」
車のキーを回し、戦場を後にする。
電飾の灯りだけが俺を祝福してくれていた。
−アルのハードボイルドな1日・完−
目的地の近くの駐車場に車を乗り捨て、細く開いた門の
隙間から身を滑らせる。
中に入ると、ざわざわとしたざわめきと共に緊張が走る。
そう、ここは、パーラーという名のコンクリートジャングル。
生半可な知識では生きてはいけない。
何の準備もなくこのジャングルに入るということは、
裸で冬山に入るようなものだ。知識というコートは譲れない。
その点では十分厚着をしていた俺は、事前に手に入れていた
マップをたよりに目的地に向かった。
「ドラゴンギャル」
目的地に到着した俺は、相棒に1発ずつ弾丸を込めながら、
辺りをチェックする。移動しながら4発目の弾丸をマガジンに
セットした時、俺の体に電気のように直感が走った。
とっさに車のキーを投げ捨て、その場所をキープする。
「2−2−0−5−0−1−3」
目的地から見える標的、つまり宝玉の数だ。
自分は直感どおり、一番見通しのよい場所に腰を下ろす。
宝玉は5つ。全てを壊すまで立ち去ることは出来ない。
失敗という文字は俺の辞書にはない。
そんなことを考えながら、相棒に弾を3発づつ込める。
俺の弾丸は特注。アルミの軽い弾丸20発分の値段はするが、
俺にはこの弾丸が一番フィットする。
また、今は標的を撃つときは一度に3発の早打ちだ。
昔は狙いが定まれば1発でも打ったものだが、
この頃はそれを許さない。
目標が見えているのに当らない時は、1発の時に比べ弾丸2発分の
ロスとなる。小さなことだが、この世界で生きる俺には大きなことだ。
1発の精密射撃を行っていた昔が懐かしい。
だが、今は今。
気分を入れ替え標的に狙いを定める。
スコープ越しに目標を見ていると、次々に標的の宝玉が
運び込まれる。誰もここまで入り込む者はいないと
思っているのだろう。危機感のない奴らだ。考えが甘すぎる。
だが、今回考えが甘すぎたのは俺だったようだ。
安心して標的に近づいたその刹那、警報が鳴り響き、
女性オペレーターがエマージェンシーコードを館内に放送する。
「ムイムイチャレンジ!」
気付くと、まるで元力士かと思うほどのガタイのいいSPが、
俺の目の前まで近づいていた。
この距離であの体型となると、相棒では荷が重い。
俺は相棒を懐に入れ素手で飛びかかった。
当然、自分は腕に自信はあったが、ヤツも相当の腕だった。
その鍛え上げられた肉体はいくら攻撃をしても効いているのか、
効いていないのか分からず、また、時折見せる素早い動作も
俺を翻弄した。
仕方がない。
俺は中国でのミッションの報酬として手に入れた、
封印していた奥義を使うことを決心する。
そう、あの奥義、龍・气弾を。
俺は左手に气(aura=オーラ)をため、迫り来る巨漢のSPの腹に
渾身の力をこめ、气弾を叩き込む。
「なにをしても、俺には効かねえぜ...」
それが男の最後の言葉だった。
数瞬後、気は体内を駆け巡り、衝撃と共に男の体を弾き飛ばした。
静止した時の中、俺は標的の宝玉を確認する。
そして、懐で眠っていた相棒を叩き起こし、宝玉を破壊する。
破壊した宝玉は6つ。気付くと、辺りは夕方になっていた。
「おねんねするにはまだ早すぎる」
俺は、夕闇にまぎれ、宝玉の残りの2つを壊すと、
すばやく、場所を移し、5つ、8つ、4つと、次々に宝玉を破壊した。
気が付くと、時はすでに22時。
3回も訪れた夕方のチャンスで1度しか納得のいく当りが
なかったのは気になるが、これ以上ここにいても危険が増すばかりだ。
25個の宝玉を破壊したのだ。いくら、鈍感な奴らばかりだとはいえ、これ以上の成果は望めそうにない。
俺は、その危険な場所から足早に立ち去り、車に飛び乗るやいなや
小型トランシーバーで助手に連絡を入れる。
「使った弾丸は350発。壊した宝玉は25個。報酬は9800ドルだ」
『そうしたら、2800ドルの儲けしかないじゃないの。』
危険なミッションを選択した俺の命と2800ドルでは
釣り合わなかったのか、助手はトランシーバー越しにあきれたような
声で言った。
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「男にはやらなくちゃいけない時があるのさ」
トランシーバーをオフにしたあと、車の中でスルメジャーキーを
吹かしながら俺は呟いた。
しばらく呆然としていたが、首の痛みが俺を現実に引き戻す。
「さあ、帰ろうか。」
車のキーを回し、戦場を後にする。
電飾の灯りだけが俺を祝福してくれていた。
−アルのハードボイルドな1日・完−
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